『withコロナ・withライブハウス・withコミックバンド ~四星球ツアー初日アスティとくしま(5000人収容)80人限定2部制ライブを観て~』

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『withコロナ・withライブハウス・withコミックバンド
~四星球ツアー初日アスティとくしま(5000人収容)80人限定2部制ライブを観て~』

新型コロナウイルスの影響で全国ツアーやイベント、フェスの出演が飛んだミュージシャンは数知れない。四星球も3月7日からの全国ワンマンツアーが全公演延期になり、約50本のライブが延期や中止になった。なので、先月までの本来ツアーを開催する予定だった日に、無料配信ライブ計10本を行なってきている。そして、四国ツアー『動け四星球』も発表して、初日を7月4日にアスティとくしまで開催する事に。約5000人収容できる会場だが、国や県のガイドラインを守り、1回80人限定として、生ライブのみの13時半からと生ライブと配信ライブを兼ねた16時からの有料ライブ2回公演を開催する事を決めた。

1ヶ月ちょっと前に、ベース&マネージャー・事務所社長のU太にライブレポートを依頼され、彼らのお膝元である徳島へ前乗りとして7月3日に向かった。U太に事前にスケジュールを聴くと17時まで仕込み作業を行なっているという。17時少し前、会場に着くが、どっからどう見ても、後少しで仕込みが終わるとは思えない。メンバー4人はもちろん、地元徳島の友達たち、家族の姿も見える中、全員必死で仕込み作業を行なっている。彼らの拠点でもあるライブハウス「徳島グラインドハウス」の音響スタッフなど、全て地元の人間で固められていた。

「メンバー全員で前日から仕込みをしているバンドなんていないですよね!」

会場には、80人分のカラフルな4色のフラフープがソーシャルディスタンスを保った2メートル間隔で置かれ、前には緑の棒を繋ぎ合わせたもの、そして、ひとり1枚分の紙が緑の棒に貼られている。その紙の上には透明のビニール手袋も置かれている。フラフープの真後ろには、観客のチケット番号である紙が貼られており、それを観ただけで何となく、どんなライブになるかイメージが湧く。本来なら仕込み作業が終わるはずの17時なのに、緑の棒が不足している事がわかり、急遽ギター&小道具のまさやんが近くの100円ショップに買い足しに行く事に。同伴してバンドワゴンの中で少し話を聴くが、ずっと配信ライブをやっていたとはいえ、本格的なライブを行なうにあたり、バンドワゴンに機材や小道具の詰め込みをしていたら、すっかり詰め込み方や詰め込み順番を忘れてしまっていたと笑う。あれだけ毎日、当たり前の様に全国をバンドワゴンでツアーしていた彼らでも、そんな事になる。そう言えば、先日、ライブレポートで訪れた現場でも、百戦錬磨であるはずの現場スタッフのおじさんたちが同じ様な事を漏らしながら笑っていた。

会場に戻り、100円ショップで買ってきた緑の棒2本セットがまとめられているテープを外すという作業を手伝う。そして、その棒をガムテープで横一列に繋ぎ合わせていく作業をしている人たちに託す。私の横で黙々とテ―プを外していたシンガー&脚本・演出の北島康雄が「メンバー全員で前日から仕込みをしているバンドなんていないですよね!」と話しかけてきた。確かに、この内職というか、3ちゃん農業というか、身内総出で仕込み作業をする光景は、絶対に普通のバンドでは有り得ない。が、どこかで観た事のある光景だと何とか思い出そうとしてみる。あっ、演劇だ、それも小劇場の劇団だと思い出し、康雄にも伝えると、演劇好きである彼も「本当だ! そうですね!!」と同意してくれる。仕込みの時間を余裕で延長してしまうあたりも小劇場の劇団にそっくりだ。この日は2時間延長の19時まで仕込みは行われたが、そこを温かく許してくれるアスティとくしまも素晴らしいなと感じた。徳島が街ぐるみで生の舞台の火を消さないように動いている事が伝わってくる。

2メートル間隔で80人分のフラフープを置いて使うなんて贅沢すぎる。

当日7月4日朝8時50分、かなり強めの雨の中、U太が車でホテルまで迎えに来てくれて、9時に会場入り。前日の仕込みで舞台セッティング、音響チェックは行われていたが、バンド演奏によるリハーサルは、この日のみとなる。9時45分からメンバーによる音出しが始まり、10時半からは全体打ち合わせが行われるが、シンガー&脚本・演出というだけあって、舞台監督とかではなく、康雄自らマイクを取り、構成台本をスタッフ全員に丁寧に説明していく。マイクを持ちながら状況説明していく感じも、演劇の場当たり作業に似ている。昔、蜷川幸雄が、こんな感じでマイクを持って色々と指示を出していたなと呑気に思い出しながら、康雄の話を聴く。約20分の打ち合わせが終わり、11時から本番と同じく頭からリハを通す。

1時間のリハが終わり、ドラム&ポセイドン(ポセイドンの意味は未だにわからない…)のモリスと舞台袖で立ち話。中々、アスティとくしまというアリーナでライブをする機会も無いし、まさか、こんな形でライブをするとは思わなかったと話してくれる。前日、康雄も高校生の時にMr.Childrenのツアーを観た事や、こないだイエローモンキーのツアーを観たと話してくれたし、国民的アイドルグループが全国アリーナツアーをする時に一番小さな会場だった事も教えてくれた。ここが小さいだなんてと驚いたし、こんな大きなアリーナを2メートル間隔で80人分のフラフープを置いて使うなんて贅沢すぎる。だが、平和な状況時の企画なら心から笑えるが、このようにしないと現在はライブを行えないだけの話…。こちらまで何だか気が引き締まってしまう…。

今までフェスなどで1日数回ライブをする事はあっても、あくまで全部違う内容であり、今回の様に2回とも同じ内容のライブをする事は無い。その点に関しては、メンバー全員何かしら戸惑いは感じているようだった。特に康雄は気にしていたが、楽曲や構成は同じでも、MC含め何かしら良い意味で、はみ出した溢れ出した想いは1部2部共に出てくるし、そこが1日2回公演の醍醐味だという事に、本番直前には辿り着いていた。それに、今回は2部とも生で観れる観客はいないが、1部目生2部目配信で観る人や、知り合いから聴いたり、ネットで知ったりと、何かしら2部の違いは楽しめるはず。それこそ演劇のマチネ(昼)ソワレ(夜)公演もそうだし、康雄を始めメンバー全員が好きな吉本新喜劇だって1日2回公演をしているわけで、それぞれの良さが確実に出てくる。

みんなでライブが開催できる事に、心から感謝していた。

そんな話をしている内に観客が開場前に集合する12時半が近づいてきたので、会場外に向かう。本番前にも関わらず、傘をさしてU太も状況を観に来る。ほとんどの観客が車で訪れる中、専用駐車場に車を停め、地元イベンターであるDUKEのスタッフたちが車の中にいる観客の検温を行い、現在の体調について問診票などの提出作業を行う。車以外の観客も会場前で検温や問診表など提出作業をスタッフが行う。もちろん消毒アルコールとうがい薬が置かれた場所も特設されている。たかがライブを観るだけなのに、こんな作業を行わないといけなくなった事に、悲しさというか虚しさというか、現実を叩きつけられた気がして落ち込んでしまった。それでも、されどライブという矜持を持って、雨の中、必死に走り回るDUKEスタッフには頭が下がるし、何よりも、チケット購入時から入場時まで面倒な手続きを行なっている観客の皆様にこそ本当に頭が下がる想いでいっぱいだった。U太いわく、まだまだ終息しないコロナ状況下でキャンセルする観客もおられたし、自分や家族の体調などあらゆる事を考慮して自らキャンセルする観客もおられたという。ひとりひとりの賢明な判断に支えられ、みんなでライブが開催できる事に、彼も心から感謝していた。ライブハウスやフェスでビールを呑んで無邪気に馬鹿騒ぎする環境は、残念ながら現段階では、すぐに戻ってくるとは言えない状況だ。特に現場スタッフ以外の我々の様な関係者はライブが再開されたと無邪気に喜んだり、無邪気に観に行くのではなく、現状を理解しつつ、動かねばといけないと改めて想った。実際、観客は四国エリア限定での申込み来場の中、ライブレポートという仕事とはいえ、関西エリアの私は特別に入れてもらっているわけで、やはり気を引き締めて現場で動かねばならない。そして、とにもかくにも、音を楽しむという音楽の時間を何が何でも止めるわけにはいかない。

どうしても、こんな風に深刻に色々と考えすぎてしまう中、気持ちがほっこりする嬉しい事もあった。会場外に出てすぐ、昔ながらのパチンコ屋の大きな開店祝花みたいな祝花を発見。そこには「祝初アリーナワンマン四星球」と書かれており、送り主としては、徳島出身で康雄とU太の同級生でもある「チャットモンチー(笑)」と記されている。本来なら、(済)なところを(笑)とは誠に粋だし、そうか80人限定とは言え、祝初アリーナワンマンなんだと、どこか暗かった心が少し躍り始めた。5000人であろうと、80人であろうと、観客が来てくれる限り、音を鳴らしても良い限り、まっすぐ前を向かないといけないのだ。

「全然緊張しない! ここまでくると緊張しない!」

13時10分に開場されるが、会場内での観客同士による会話も禁止されているので、静かにフラフープの中に立ったり、座ったりと待つしか無いし、その姿は本当に健気すぎた。その姿も楽屋にいるメンバーに伝え、次第に全員口数が少なっていき、本番に向けて集中していく。そうそう、開場中の音楽が何故クラシックの「歓喜の歌」なのかは台本を見た時から気になっていたが、大きなホールだから厳かな雰囲気を出すためなのかなとかくらいにしか思ってなかった。「歓喜」=「換気」と気付くのは、随分と後の話の事。まぁ、そんな話題は一旦置いといてと。でも、この曲が観客により緊張感を与えていたし、だからこそ、13時半ちょうどに康雄が現れた時の観客の安堵感といったらない。康雄が「全然緊張しない! ここまでくると緊張しない!」と言い切ったのも、とてつもない安堵感を観客に与えたはずだ。会話や歓声や大笑いなどは禁止だが、拍手や足踏み、ちょっとくらいの笑い声は大丈夫な事と、自信満々で迎えるはずだった3月からのツアー全てが飛び、今日が4ヶ月以上ぶりの観客前でのライブである事も伝える。恥ずかしがりながらも、心のリハビリを観る感じで観てくださいという表現も誠実で可愛らしかった。

さぁ、ここからようやく本題に入っていく。康雄は、ツアータイトル「動け四星球~踊る阿呆に見る阿呆~」にちなみ、見る阿呆係としてガイドラインに沿ってライブが出来ているかをチェックするチェック係がいる事を話す。今回のライブは度々、このチェック係がナレーションとして声のみで登場して、四星球を振り回していく。まずはチェック係からメンバーも関係者も観客も2メートルの間隔を空ける事を改めて告げられ、康雄がビバルディ「春」が流れる中、2メートルのソーシャルディスタンス講座を行なう。

食品用ラップや、彼らがCMソングを手掛けたKAGOMEのONEDAY ENERGY BANANA、うまい棒なら何本分か、また自身の身長(187センチ)+靴底(3センチ)+指1本(10センチ)の鬼のポーズ、アホウドリの翼(自身のパネル、アホウドリのパネル共に、まさやんお手製ダンボール作品)などを例えに出しながら2メートルという間隔を伝えていく。鳥類繋がりで2メートル49センチの黄色のビッグバード(もちろん、まさやんお手製ダンボール作品)なども紹介して、メンバーが2メートルを表現しながら登場する事に。ドラムのモリスはカピパラ4匹がプリントされたダンボールを背負って来るが、そのカピパラがそれぞれ交尾をしていたり、ベースのU太はカクレクマノミ(ファイティングニモでお馴染みの小魚)200匹横1列で表現するはずがグチャグチャのバラバラで泳いでいる絵が描かれたダンボールを背負って来たり、ギターのまさやんはうまい棒横並び左右10本ずつ貼り付けられたバーを背負って、何と客席から登場。この小ネタ連続技で観客は声を出せない中でも緊張が少しずつ和らいでるのが、会場後方からでも感じる事が出来た。

「ライブ再開というより、ライブ再会じゃない?!」

60分という時間設定なのに、最初の説明だけで10分を使うのも彼ららしい。「バンドがジャーンと鳴れば、2メートルでも3メートルでも、すぐ埋めれます!」と叫び、そのまま普段のライブでも特に盛り上がる「クラーク博士と僕」へ。フラフープの中で観客全員が興奮しきって拳を突き上げる。最高の瞬間に、まさかのチェック係による注意音が鳴る。そして、「この曲はムチャクチャする曲で何が起こるかわからないので、ガイドラインに沿わない可能性があります。まだ早い気がするので、この曲の自粛を要請します」と完全に水を差されてしまう。しかし、そんな事ではめげないのが四星球。自粛期間中に出来た曲「ライブハウス音頭」を「ライブ再開というより、ライブ再会じゃない?!」を正真正銘の1曲目として披露する。「ええとこよ ええとこよ 口ずさんでもいいよ」、「この日のためにずっとがんばってきたんですよね えらい それがあなたのええとこよ」という今の状況に耐えるライブハウスファンたちに温かく寄り添う歌詞も自然に耳に入ってきた。

続くは『鋼鉄の段ボーラーまさゆき』。まさやんが自分で作った「まさゆき」と書かれたパネルを背中に、いつもスタッフから背負わせてもらうが、この日は自分で背負う。「こういう時代なんで自分で背負う時代」という康雄の何気ないひとことも時代を自然に反映していて、とても良かった。曲中に康雄が音符の作り物をまさやんの後ろに出して、ステージに放っていくが、ここでも曲終わりに「この散らかったステージが懐かしいです!」という何気ないひとことが出る。ライブを観る側も色々な想いを感じながら観ているが、ライブをやる側も色々な想いを感じながらやっているんだなと、思わずしみじみしてしまう。 また、康雄の指示で観客が目の前にある紙が貼り付けられた棒を透明のビニール手袋をはめた上で持ち上げると、その紙にはギターがプリントされていて、エアギター体験が出来るという粋な趣向が凝らされていた。ここで、ようやく観客はフラフープの中から一歩後ろに出て、右へ左へステップを踏む動きが出来る。こんなに動いても良いのと少し不安そうにしながらも、嬉しそうに動いていたのが印象的であった。この日は換気の為、扉を開けっ放しにしていたのだが、すぐ外にある川も丸見えだし、その川沿いである会場の扉前を散歩していた老夫婦が不思議そうに中を覗いていたのも、今までのライブでは絶対に観る事が出来ない光景で面白かった。

ライブが進むにつれて、康雄の言葉も強くなっていき、『ライブシーンはどん底まで叩き落とされたけど、後は跳ね上がるのみ! 幸か不幸か、最大の武器は反骨精神!!』と語ったのにもグッときた。だが、やる事は、いつも通りアホらしく、「運動会やりたい」でチーム分けをして運動会を疑似体験させるシーンも、いつもどおり。ここでカラフルな4色のフラフープが役に立ち、4つのチームに分けられる。女性のおっぱいが搖れてる事をいちいち指摘したり、「夕方もおっぱいを期待してます!」と言ったりと、こんな4ヶ月ぶりの大切なライブで、どうでもいいアホなシモネタを連発する事も忘れない。かと思えば、突然、「胸張ってさ! エレファントカシマシですよ! エビバデ!!」なんていう言葉を、何かが降りてきたかのように叫んだりと、本当にライブって生モノなんだなと、その衝動的なパワーを感じずにいられなかった。

チェック係のチェックも留まることを知らず、「カピパラ」と「カピバラ」の言い間違いを口うるさく言ってきたり、運動会における勝敗について負けたチームが可哀そうとイチャモンをつけてきたりとヒートアップしてくる。ガイドラインに沿っていくしかない中で、康雄は「みなさん(ガイドラインを)守っていて偉い。馬鹿馬鹿しくも見えますけど、これがかっこいい姿。未来のためにやっているし、これより馬鹿馬鹿しい事を今までやってきましたから。そして、一言だけ言わせて下さい・・・、ライブ舐めるな!!」とキレッキレになっていく。

「ライブハウス楽しい~!」

遂には完全に吹っ切れて、最初に禁止された「クラーク博士と僕」を歌い出す。「ライブハウス楽しい~!」という康雄の叫びも、心の底から叫んでいるのがわかった。まさやんも誰の力も借りずに綺麗にバク宙を決める。また、康雄は顔に食品用ラップを死ぬんじゃないかと心配するくらいグルグルに巻きながら、観客がいるフロアに降りていき、観客とのソーシャルディスタンスを守った上で走り回る。人力フェイスシールドには「ルールを守って死にかけました!」、ソーシャルディスタンスフロア飛び込み走りには「ルールを守って走れば走るほど(観客と)遠のく!」と感想を話していく。ルールを守れば守るほど、観客との物理的な距離は出来てしまうが、間違いなく観客との心の距離は縮まっていたはずだ。そう信じている。

本編ラスト2曲が告げられ、「こんな時にしか出来ないので!」とメンバー全員マスクを装着する事に。もちろんマスクは「国から小道具を頂きました!」という噂のあのマスク。何もかも全て利用してしまう彼らのタフさが堪らない。「ライブハウスの誰かが売れたら明るくなるし、それが自分たちならいいのになと想っています。アスティ完売を祝して歌わせてください!」と言ってから、「出世作」へ。最後は「豪華客船ドロ船号」で〆られた。お世話になっている人のためにも必ず出世しますという想い、そしてドロ船かも知れないが未来に向かって突き進んでいくという想い、そんな強い想いが込められた2曲の流れは誠にエモーショナルだった。「もうちょっとかかるかもですけど、がんばっていきましょう!」という言葉も、どうしようもない現状をしっかりと受け止めていて、全く嘘臭く無く響いた。

最後は興奮して舞台袖に消えていくモリスに「ガイドラインに沿って落ち着け!」と康雄が言い、そうすると舞台袖からモリスのパンツ柄と同じ長い棒の様なモノがニョキッと出てきて、「モリスのガイドラインが反ってる!」というひとことで終わり。ガイドラインaka股間という誠にアホらしくて馬鹿馬鹿しい終わり。さっきのおっぱいも伏線だったのかなんて、どうでもいい事を考えてしまう。後でU太と話すと「普段からシモネタはありますが、デカいライブでシモネタで終わる事は無いかもですね」との事。エモかったり、エロかったり、本当に両極端の感情を揺さぶってくるバンドだなと改めて感心してしまう。

アンコールはモリスのガイドラインaka股間をメンバー全員羽のように2本背中に背負って登場。登場する時に舞台袖のついたてからニョキッと見えてしまっていて、それをリハの時に康雄に話したら、「それも言っちゃいますね!」と嬉しそうにしていた。どう言うのかなと楽しみにしていたら、「先っちょ見えていたでしょ! こんなライブを見に来たんですよ! こんなライブを待ち望んでくれていたんですよ!」と言っていて、本当に流石だなと想った。

アンコール楽曲「世明け」、「コミックバンド」の後には、あれだけ厳しかったチェック係が「ガイドラインに沿った良いライブだったよ。これからも頑張ってね! そして、ずっと翼を広げてたら疲れたよ」と四星球に語りかける。その正体は、最初に出てきて、ずっと舞台上に置いてあったアホウドリ。康雄のアホウドリに向かっての「見る阿呆」のひとことで大団円。普段2時間半のワンマンライブをする彼らが、見事1時間ぴったりで終えたのは素晴らしかったし、観客も自由に声を出す事も、自由に動き回る事が出来ない中で、心の底から楽しんでいたように見受けられた。

すっかり雨も止んだ第2部は16時に開演。

14時半に第1部は終了して、第2部の開場である15時40分までにスタッフ総出で会場の消毒作業に入る。観客用のフラフープも緑の棒も、そして緑の棒に貼り付けられたギターがプリントアウトされた紙まで新しい物に替えられていた。前日の仕込み作業から消毒作業は当たり前の様に観ていたとはいえ、改めて難儀で厄介な凄い時代になってしまったなと…。ライブ中には緊張感で緩む気配すら無かった涙腺が、こんなところで緩んでしまう。でも、まだ泣くわけにはいかない。まだまだ第2部が残っているのだから。

同じ内容での2部構成の面白い点は、反省点や修正点をすぐ1時間半後の第2部に生かせる点。康雄が楽屋で気になった点について何点か話してくれた。その点を踏まえながら、ざっくり第2部も振り返っていきたい。すっかり雨も止んだ第2部は16時に開演。康雄が冒頭から「パッと見た感じですが、第1部の人の方が温かかったですよ!」と言うだけで自然に大きな拍手が起きる。どうしても第1部の観客は初めてという事もあり緊張していた為、そこを踏まえた上で、より第2部では拍手が起きやすいように観客を誘導していたし、感情を表す時は拍手と足踏みでと、第1部より丁寧にレクチャーしていたのは良かった。

紙のエアギターを弾くくだりでは、第1部では観客も紙のエアギターが貼り付けられた緑の棒を持つので手一杯で、紙のエアギターを弾く動作までは中々いかなかった。なので、第2部ではちゃんと「ギターを弾いて!」と声掛けする事で、ほとんどの観客が紙のエアギターを弾く動作が出来ていた。ちなみにどうでもいいところなのだが、このくだりまでに色々な楽器をエアで弾く流れがあり、エア鍵盤の時に第1部では国分太一と例えていたが、第2部では何故か幹てつやに例えが変わっていたのも、個人的には大きなツボであったが…、さっさと次の振り返りにいこう。

康雄はMCの内容が第1部と第2部で、どのようなバランスになるかを本番前から気にしていたが、もちろん伝えたメッセージは基本同じだが、ちょっとした変化が出てくるのも興味深かった。特に第2部での「エンタメが死ぬとか言われて窮屈やけど、作られた音楽は一生残るから!」という内容は、とても好きな言葉だった。ライブが観られない上に、一生音楽にも触れたらいけないと禁じられたら、本当に苦しいだろうが、まだ私たちは家で音を楽しむ権利までは取り上げられていない。孤独であればあるほどロックンロールは沁みる音楽。そういう意味で、このMCは魂の叫びだった。

後、康雄は時間も第1部と第2部で変わってしまう事も、時間が短かった方の部を観た観客にとって不公平だと大変危惧していた。実際、第2部は第1部より10分長い70分だった。ただ、これは60分を超えるとわかった時点で年越しカウントダウンの様に遊んだり、また、その後、メンバーが今回のライブを振り返る時間を敢えて作ったりしたからであり、リアルな押し時間は5分弱くらい。結果、その押し時間は、運動会のくだりでの休憩時間だったように思う。自分たちも本編最後2曲をマスク装着で演奏する中で感じた苦しさや、舞台上から観客の苦しそうな姿を感じた上でという第1部を経ての配慮が出た様に感じた。なので、意味のある押し時間。

その押し時間に関する点でいうと、「(時間が押すと)延長料金がいるらしい。でも、いいんです、今日は損しに来たんで! みなさんも労力かけて来てくれたのに、今まで以上の楽しみはないやん! だから、損する事を楽しむしかない!」というMCは是非とも取り上げておきたい。この言葉は、観客は本当に嬉しかったと想う。以前は自由自在にライブを楽しめたのに、今は検温や問診票、声を出しちゃいけない、動いちゃいけないと、嫌ってほどガイドラインを守らないといけない。そこを丁寧に思い遣る康雄。こんな風に思い遣ってもらえたら、まだまだ不自由なライブが続いたとしても、観客は四星球に一生ついていくだろうなと想えた。

「(チェック係を)悪にしたくないんですよ」

そして、最後は大オチになるチェック係について。第1部終了後の楽屋で、康雄が「(チェック係を)悪にしたくないんですよ」と言っていたのが凄く心に残っている。確かにいき過ぎたガイドラインやルールもあるし、そこに対する怒りが正義の時もある。また、第2部終了後の楽屋で康雄は「考えてみれば、今までもルールギリギリのところで、どこまで出来るかを(関係者に)聴きながらやってきましたからね」とも言っていた。誰かを悪にし過ぎて怒っているだけでは何も始まらないからこそ、とことんルールギリギリの打開策を探すしかない。そして、最後は、その厳しい現状を面白がって受け止めていくしかない。振り返ると、康雄だけでなく、他のメンバーも本番中、チェック係へ怒りすぎずキツすぎず、次に繋がる様にリアクションをしていた。どれだけチェックされ続けても、へこたれず、笑いながら次の打開策を探すという展開。その軸が全くブレないので、物語の流れで後味の悪さを感じたり、物語の流れが遮られ腰を折られる様な事は一切無かった。

アホウドリを観ながら、康雄が「見る阿呆」と言って、チェック係の正体が判明するという大オチ大団円についても、もう少し触れておきたい。第1部では最初に「見る阿呆としてチェック係がいる」という丁寧な伏線を張っていたのだが、第2部では思い切って、その伏線を捨て、最初から「チェック係」としか言わなかった。その替わり、随所にツアータイトル「踊る阿呆に見る阿呆」をMCで散りばめる事で、最後の「見る阿呆」という大オチが気持ち良いくらいに決まった。もっと細かい点でいくと、ステージ後方にツアータイトルが書かれた看板がぶら下げられていたが、第2部では、ちょうど「見る阿呆」という言葉の下に配置されるようにアホウドリの位置が変えられている。シンガー&脚本・演出とはよく言ったもので、もはや演劇の演出家並みの演出。マチネの反省修正が見事にソワレに生かされていた。「劇団四星球」天晴としか言いようがない。

結果、衝動的な第1部、そして、たった1時間半後なのに異様に円熟味を増した第2部と、それぞれ違う良さが見事に出た2部公演。チェック係による一番最後のナレーションにもあったが、1日でも早くライブハウスの熱狂が取り戻せるようにと強く想えた4ヶ月ぶりの観客前ライブであった。U太がアンコールのMCで「(今回のライブの)手続き面倒くさかったでしょ? でも、これからは自分で判断して、みんなで作っていく時代にしましょう!」と言っていたが、本当にそんな時代になっていくのだ。それに当分の間はライブが終わる度、メンバーも関係者も観客も最低2週間後までは気を抜く事が出来ない。自分で、みんなで、そんな時代の変化を敏感に気付ける様に努力するしかない

「めざましテレビ」や地元のテレビトクシマへのコメント収録を終えた後、康雄は2部共に本番15分前まで体が思うように動かなかった事を明かしてくれた。第1部で既に腰も痛めてしまったという満身創痍な状態の中、「春は必ず来ると言えていた時代が、もう随分昔のようですよね」とつぶやきながら、今後に向けて、今回の第2部の様な生ライブと配信ライブの両方を行なう時のアイデアを嬉々として次から次へと話してくれる。「ライブシーンはどん底まで叩き落されたが、跳ね上がるのみ!」と第1部のMCで語っていたが、このバンドは本当にどん底から跳ね上がる事しか考えていないのだなと胸が熱くなった。

「withコロナ」という習慣が新しい生活様式に入る可能性が物凄く高い時代に、「withライブハウス」・「withコミックバンド」という習慣も新しい生活様式に何としてでも入り込もうとしている事を、絶対に忘れないでもらいたい。

文:鈴木淳史
写真:吉田大右